| ―STAGE20 聖女の正体 ―
地下室は冷やりとした空気に満ちていた。ジンは殆ど夢見心地で、ベッドの端に座ると、シスター・マルドをためつすがめつ眺めた。
「そんなに見詰めちゃ恥ずかしいわvちょっと待っててね。今飲み物を用意するから」
シスター・マルドは何やら間仕切りの向こうに消えて行った。
「それにしても、変わった部屋だな。ロウソクもいっぱい立ってるし、灯りはピンク色だし、壁に昔の馬具みたいなのや縄がいっぱい掛かってるな…。あの椅子は子供用かな?肘掛が斜めになって、座るところに穴が開いてるが」
ジンは嬉々として、地下室の様子を眺めた。
石造りの壁にはアーティスティックな結び目の縄がズラリ並んで掛かっているし、乗馬に使う鞭の数々もあった。それに加えて、最も目を引くのが、部屋の隅にぽつねんと置かれた白い木馬だった。木馬の背中は、何故か尖った三角形なのだが。子供用にしてはいやに大きい。
「ベッドも丸くて回るし、ホント変わったトコだよな〜」<いや、ここはラ●ホのSMルームだっつの(笑)
やがて、シスター・マルドが再びジンの前に現れた。
「おお!」
ジンは驚愕に目を見張った。なんと、シスターは先程までのすけすけベビードールから、ナイスなバディにぴったりの黒いボンデージルックだったのだ。白い肌に食い込む眩しさといったら。もう眼がツブレそうなのだ。
「どうかしら?お気に召して?」
「召さいでか召さいでか」
ジンは鼻の下を五センチ伸ばして、シスターに縋り付こうとした。ところが、シスターはジンの腕を冷たく振り解く。
「だーめよ。この特製ドリンクを飲んでからよ!」
「と、特製ドリンク?」
差し出されたゴブレットの半分まで、何やら赤黒い液体が満ちていた。やや甘酸っぱいそして、何となく生臭いような臭いがジンの興奮度を更に加速させた。
「そうよ。これを飲んで。元気倍増の強壮剤なの」
「お、オレにはそんなの不要だぜ!一晩中だってオッケエだ!」
「ノンノン。だめよ、一晩だなんて。三日三晩続けるにはこれが必要なの!ねぇ。私一晩だけでは満足出来ないの…お願いだから、これ飲んで頂戴v」
なんて、まるで「不〜二子ちゃ〜ん」みたいに色っぽく迫られると、ジンの眼球は飛び出さんばかりに見開かれ、既にギンギンな下半身の《ぶるんひるど》も、もう一擦りで暴発の手前であった。
「わかった!一気に飲むぞ、一気に」
「ウレシイ〜vささ、ぐぐっとやって!」
ゴブレットを傾けたシスターの眼が妖しく光ったことに、ジンは毛頭気付きもしない。色香に迷うとは、まさしくこのことである。
が。
「まぁてまてまてまて〜い!」
ピンク色の空気を無粋に引き裂いた濁声があった。
ジンは一口入れ掛けたところで、思わずゴブレットを滑らせてしまった。無残に床に砕け散るガラスと赤い液体。
「ああっ!」
と、血相変えたのはシスター・マルドだった。振り返った先には、ジョーの立ち姿が。
「何すんだよっ!イカサマ似非むっつりスケベいんきんたむしウスラハゲおたんこなすゴクツブシ出べそ神父!」
ジンは瞬間的に思いつく限りの罵詈雑言を放った。
「言ってくれるじゃねえか?ホーケー短小ちんかす腐れち●ぽのこんこんちき小心者剣士が。何もしてねえ。『まて』と言っただけだ」
ジョーはハナクソをほじりながら、忌々しげに答えた。
「幾ら不貞腐れたって、オマエみたいなオヤジは仲間に入れてやんねえ!」
「ああ!入れて欲しかねぇよ。だってそいつは、シスターはモンスターなんだもん」
ジョーはまた、シスター・マルドの正体を簡単に看破してしまった。
「うへえ!」
ジンはシスターを見遣った。
「マヂですか?」
「ええ。くやしいけれど、そのイカサマ似非むっつりスケベいんきんたむしウスラハゲおたんこなすゴクツブシ出べそ神父が言う通りよ。チッ。もう少しで久々に若い男のエキスが手に入りそうだったのに〜」
シスターは、ジンの台詞をそっくり記憶していた為に、ご丁寧にそう答えた。
「…さ、サイアクな展開だ。もうちょっとでぐちょぐちょえろえろ出来るとこだったのに」<悲しむトコが違うだろ
ジンは本気で悲しんだ。
そんなジンの姿を尻目に、シスター・マルドはみるみる変貌を遂げて行く。赤い毛は逆立ち、白い肌はますます冴え渡って青白くぬめり、両手の爪は赤く尖り、爛々と血走った眼の瞳は金色に変化した。そして、最も変貌を遂げたのは、赤い口唇に縁取られた白い歯並び。
ニッと笑ったその凄絶なまでに美しい笑顔に際立つのは、二本の鋭い犬歯だった。俗に牙といい、彼女のような人種をこの世界の人々は『ヴァンパイア』と呼ぶ。
「漸く正体を現したか、性悪吸血女め!さぁ、行くぞ!正義の十字架受けて立て!」
ジョーは自身たっぷりに中指を立てた。
「おほほほほ!猪口才な!私こそこの夜の支配者『クイーン・オブ・ヴァンパイア』!イカ臭い右手の剣士とインチキ神父ごときで勝てるものか」
シスター・マルド、いや『クイーン・オブ・ヴァンパイア』は、高らかに笑った。
乱入してきたジョーによって戦闘開始の火蓋が切られた以上、最早逃げ場もない。どうやら、己の運命はいつも勝手に転がって行くもののようだ、とジンは愕然となりつつ、《ぶるんひるど》を抜いた。無論、これは腰に帯びたホンモノの剣の方である。
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