どうでもいいかもしんない解説(または製作時の裏話)

第1・2話 触日者のジルバ(前後編)◆

 最近どうも、「男の匂(臭)いがする男」をあまり見かけない。現実でも、スクリーンやTVや小説の中でもだ。
 腕っ節が強くて、とにかくタフで世間の常識など無視した男は大勢いる。
 だが、同時に繊細で臆病で、可愛くもある男がいない。クサいセリフを言えない男が多すぎる。
 一匹狼はいるが、結局は窮地に立たされると何れも他人との間合いを詰めてみたり、惚れた女の前だけでいじらしい姿を見せるなんて、反則だ。普段から堂々と男同士ケンカして、惚れた女にガンガン攻めまくる男じゃあいけないのか?カッコつけるのは、
「闘う」一瞬だけで充分じゃない?
 そんな男達がいたらなぁ、というのがはじまりだった。
 プロセスからいえば、最初の考えでは一人主人公だったものの、やはり偏りが出来るとまずいので、極端に違う二人を同じ位置に立たせる必要が出来た。
 ・・・果たして、結果的に、この方がストーリー展開としては、はるかに楽になった。

 初期原稿では、この第1・2話は少年トリルビーと酒場の女主人アリスは実の親子という設定だったが、ウエットな話を嫌って、改稿時にばっさり切り捨ててしまった。
 トリルビーの死に関しても、飽くまでドライにこだわった。悲しいことは、悲しいが、いつまでも後ろ向きではいられない男達だということで。
 モジトという町も、改稿時の思いつきだ。本当は、南米あたりが舞台の予定だったからだ。何故か極東から始まることになった。
「烏鴉王」は、実は別の自作からの借用である。いずれお目に掛かるだろう。これも、初期段階ではなかった設定だ。《聖水》は、ドラッグ・ウォーターだった。後者は、あとあとの話で使うということにして、まずわかりやすい素材に替えた。
 女巡検使ミスティ・サファイアの登場も、本当は次話からの予定だった。だが、総ては主人公二人の性格(の違い)と主義主張を全面に押し出す為の要素として、大幅に改変しての登場である。もっと、初期の段階では、本当は潔癖なお嬢様のつもりだった。だが、やはり主人公達のせいで、かなり毒と色気がぎゅうぎゅう詰めの個性派美女に変身してしまった(後々は、これが多大な影響を与えることになる)。

 
GUNについてだが、これも出鱈目半分だ。ヨーロッパ製の銃火器は好きだが、どうしても資料が入手しにくいうえ、どういう反応をするのか判りにくい。従って、不承不承、米国製を基本にやることと相成った。リヴォルヴァーといえば、本場はアメリカだもんな。しかし、GUNマニアが読んだら、激怒するようなヘタレな使い方しか出来てないように思う。
 
バイクは譲れない。これだけは、主人公はバイクに乗るんだ、との一念で、ウソ臭い超大排気量のオンロードバイクをでっちあげる。(後で、3ナンバーのヨッパ並みのエグゾーストを持つバイクがドイツで実用化されつつあることを知り、胸を撫で下ろしたものだ。下手すると23Cには時代遅れ過ぎるかもしれない)

 一般的には、初期原稿のほうがウケは良かったんである。
 ピーチィも初期の段階では「標準語」表記だった。
 あれやこれやと、言われた。「関西弁」は世界観にあってない、などと。単にいまどきのマンガやアニメの「流行り」で「関西弁」を喋らせているんだろう、と暗にいわれたのがムカついて、敢えて針路変更はしなかった。作者としては、言語学的な見解があってのことだったが、シロウトにわかるか、と、蹴られても勝った顔でいた。これも侠気だ。
 別に、こんな物語は世の中に認められなくてイイ。
 
飢えた狼でなくては、自分の中の泉は湧き出ない。


◆第3・4話 《不帰の砂漠》のスクエア(前後編)◆

 
この話も、初期原稿とは趣が違っている。
 初期設定では、女医ホリーは、国際警察傘下にあった。結果としてスタンレーを裏切ることになる筈が、改稿後は、謎の組織の存在をUPやジン一行に知らしめることになった。
 作者の意図するところは、高度文明を捨てない上層都市の代表者であるUPと、対立する側ヴァティカンの命を受けているジンとアーチ
その何れにも属さないと見える「第三の勢力」の提示である。
 この提示は、次話に受け継がれていくことになり、ここでは伏線となるのだが、明確には示さないでおく方向になった。
 本作は、「国境」という概念について、再び考え直す機会となる。「BORDER」という語句の意味は、単純な区別として記号化されていいものなのか?国境のあるようでない島国に育った自分に、それが意識出来ているのか?
 ソマリアの内戦地帯で複雑奇奇怪怪な経験をした、元・看護婦さんの話やら、元・傭兵の話やら、昔の映画やらを観て考えたことが、文章になった。そりゃあ、もう私を取り上げてくれた看護婦さんは、たいへんな思いをして国境を越え、日本に戻ってきたのだという。現代だって、自分の直ぐ側に、こういうことはあるんだ。

 ここで、実は前作でテキトーに考え付いた
「フォーティファイド」について、じっくりと考えてみた。
 SFのオーソリティである「サイボーグ」を完全生体にしたみたら、どうだろう。他者を介してのメンテナンスは、非常に邪魔臭い。本来、人間は体の一部分を自力再生しているのだ。それを、ちょちょいと遺伝子いじって強力な再生能力と、運動神経を持つ人間にすることは、やがて出来るかも知れない。
 かといって、いいことばかりではない。再生能力が高いということは、新陳代謝が優れているということで、薬の効きが早くても、感染症には覿面に弱かったりする。両刃の剣だ。だが、敢えて、この部分は取り払わないでおいた。で、サソリの毒の登場となった。

 一方、退屈な監禁場面で、ジンはパウダーガンの師匠ジャバー・ウォックの思い出に耽る。これは、仇敵ロブ・ロイを引き出すに一役買ったようなものだったが、短くジンの経歴を語るには、都合が良かった。同時に、ジンの左頬の三条痕の由来とサムライ(?)ヘアーを説明するのにも便利だった。
 そして、一方、対照的に意外な一面を吐露するアーチ。家庭的なものを求めている、という割には過去が謎のまま。しかも、サフィール枢機卿との間になにやら因縁めいたものが、見え隠れする。本当は、これももう少し後に入る筈だったが、ミスティの登場が早まった為に、止むを得ず挿入する運びとなった。
 
「ジェノサイド条約」に関しては、本文に書いた通りだが、何処まで改訂されるかは疑問だ。
 作者の希望的観測として「第7次」と銘打ったのみで、実際は今後どうなることやら。出来れば、より人道的な条約を世界で締結して欲しい。

  さらに細かい事を言えば、最も初期の段階では、ホリーはアーチと関係させるつもりではなかった。
 もう少し、細心の注意を払った登場の筈だったが、いろいろ翻弄されて、キャラクター自身も迷惑だろう。
 だが、導入部分に困って、考えあぐねた挙句に「腹いせで毒を盛った」ことにしておく前振りには、よかろう、との決断だった。
 また、あまり本編以外で登場人物の性格を語ってもいけないのだが、ジンとアーチの女性観というものの違いを出す為の話としても読める筈。潜在的な意味で、本当は異性に関して慎重で小心なのは、後者の方である。
 とまれ、思い掛けず、このエピソードが次話にスパイスを加えてくれたことに、感謝せねばなるまい。
 なお、キール・スタンレーは再登場する。

 

◆第5・6話 シルヴァー・アイズ・アンダー・ザ・ムーン(前後編)◆

 「吸血鬼ネタは、反則かもなぁ」と思いながら、書いた話である。とはいえ、本格的なホラーにもコメディにも出来ないので、結局はハイパー・フィクション・サイエンスなオチに至った。
 実をいうと、これほど作者的に劇中で
を吐いた物語は、珍しいかも知れない。
 「根拠のない吸血鬼バナシなら、書くなよな」
と、もし世の中に言えるなら言ってみたかったのかも知れない。尤も、吸血鬼ジャンルなんてまともに読んだこともないが。
 《PE》プリオンなんて、めちゃくちゃの出鱈目である。
それは、数日、科学入門書やら専門雑誌やらをぱらぱら読んで、「こういうことなら有り得るかも」というものを、考えただけの事だ。敢えて、ここでクロックワークの種明かしをする必要はないのだが、どうせ書くなら徹底的にウソを作れよな、と言いたかったんだろう。実生活では、まったくウソをつけないバカ正直者の作者だが、こと作品に関しては、ウソの大安売り、ウソつき大元帥である。

 
普段は歩いて取材をすることもある作者だが、ここではまったく他人の意見を取り入れず、独断で進めていった。
 喫茶店の隅っこで、計算用紙に《PE》プリオンのランダムコイルの形状やら、フィラメントの図式なんかを描いて、説明できるように隠れた内職をした(誰も質問なんかしないだろうけど)。いっそ図も貼付したらどうだろう、とも。科学を言葉で説明することは、やはりムズかしい。思わず、唸った。
 「
そういう見えない努力を、科学者はやってるんだ」という気分になり、俄然その部分での描写は緻密にやった気がする。
 だから、たとえジュブナイル小説といえども、純文学といえども、我々文系(そうでない方もいらしゃるが)人間は、あらゆる事を分析的に見詰める努力を怠っては、物語を語る資格などないのだ。と、再確認する。そ
の点、三人称SFは、一人称で「オレはよく判らない」で済まされる問題が、説明抜きではシャレになんない。
「『人文科学』も『科学』である以上、理論的、分析的に考える力が必要なのです」
 これは、私の心の師でもあり、敬愛するK先生のモットーでもある

 今回登場の、謎の男パルメット・ソノーラは、最後の方で吸血鬼騒動とのかかわりをネタばらししてくれるばかりか、意味
深なセリフを残して去るのだが、彼もまた、いずれ再登場を待つ人物である。
 
初めは、コールガール・マルドを死なせるつもりはなかった。だが、物語が進行していくに連れて、何のインパクトもない結果に陥るのが見えてきたので、思い切ってまた強行手段に出てしまった。そこから生まれる虚脱感を、ジン味わって貰おうと言う試みとともに、相方との対照的な性格が見えてくることを期待した。
 人間関係にピュアであるがゆえに、泥沼にも自ら踏み込んでいってしまうヤツと、陥穽を恐れて表面上は社交的なくせに、本当は孤独なヤツは、お互いをどこまで信頼出来るのだろうか。良かれと思っても無意識のうちに他人を傷付け、または自分も傷付いてしまう。「吸血鬼」はそんな人間関係の罠の象徴だ。
そういう試みでもあった。


 

◆第7・8話 タンゴ・ジェノシディオ(前後編)◆


 神父を出したくて作ったといっても過言では無い話。ついでに、判りにくいヴァティカンの内部事情でもちょこっと描いておこう、とか。従って、ほぼ主人公はジョーとミスティになり、自然と二元中継で進んでいった。
 出来得るならば、作者は回想シーンを少なくしたいという主義なので、いささかジョーとジャスミン、グラッド・アイ(イアン)との関係を説明する部分は、物足りないと仰る方もいるかも知れないが、御容赦の程を。
 ジョーの原型は「あとがき」でも述べているが、決して清廉潔白な神父がモデルではない。
 
「異端審問官」という職業は、実際の歴史では専業では無かった。領主や国王がその元締めで、実務を執り行なう者が、変化してインクィジターとなった、ということにしてある。いずれにしても、ヴァティカンにも「仕置人」はいるだろう、という想像。
 しかも、それは若造では意味が無い。ちょっとばかし破天荒な
オヤジが適任だった。初めはアメリカ人にして、事あるごとにアーチといがみ合いをさせておこうかとも考えたが、楽しいケンカ(?)は相方とだけにして貰わないと、作者も身が持たないということで、急遽作りながらアイルランド人に。
 その流れでグラッド・アイも傍若無人なテロリストになった。
 ここらで、若い二人の主人公を少し第三者的に見る人間がいてもいいのでは、という気にもなっていたことだし。ミスティでは役不足、というのではなく。カノジョはここまで来ると、今後の展開のキーパーソンの一人、ともいうべき存在感を明らかに示してきてしまったからである。それに、非常に重要な問題の当事者ともなるので(いろいろな意味で)。
 今回初登場のマキシム・デ・リガールも、ヴァティカンサイドで重要なカギを握る男である。専ら、権謀術数の方での活躍ではあるが、恐いものナシのドットーレ・ブールヴァルドの天敵としては、引けをとらないクセモノになるだろう。直接対決は、ずっと後のことになるが。
 特筆すべきかどうかはわからないが、ミスティの剣の師匠と、母親の存在に言及しているのが、一つのポイントかも知れない。

 また、今回のテーマは『復讐』でもあった。
 
「恨み、憎しみから生まれるものなどない」といつか観た映画で言っていたが、それはその通りだと思う。
 だが、『復讐』という亡霊にとりつかれた男二人の対峙する様にも、もしも何か生まれるものがあるとしたら、それは何だろう?と考えてみた。
 ジョーとグラッド・アイの交わす言葉や、対決場面では、それは敢えて文章として述べることを避けた。
 何かを成し遂げんとする志。その方向性が「正」か「負」か。その違いはあっても、『復讐』が終結した後に、当事者だけでなく、周囲の人間にも何かプラスとなるものが生まれているかも知れない。
 言うじゃないか。
「毒にも薬にもならないヤツよりも、悪にも正義にもなれるヤツ」って。・・・言わないか?

 一つ難をいえば、資料探しの時間が取れず、ヴァティカンやら何やら、適当でない描写も少なくないのではないか、という懸念が残ったところだ。


◆第9話 戦場のカリアティード◆

カリアティードは、本文中で説明した通りそのまんまなので、今更いうまでもない。
 戦場、とタイトルうった以上もっと生々しい話を当初は予定していたが、どうもしっくりこないので次話送りになった。
世界設定としては、イスラム圏にあたるトルコ領土ということで、二十世紀後半からのECへの反発を呑み込みながら、虎視眈々と復権を狙っているということになる舞台背景だ。という意味では、東西の混合、衝突する地域ならではの特色というのが今回は出てないかも知れない。しかし、本編のこれからはこの周辺の情勢が重要になってくるので、まずその布石ということになれば、多少なりとも報われた気がする。



◆第10・11話 光と海と涙と◆
時間が掛かった割には、ほのぼのともせず、殺伐とした話でもなく、心ときめくような内容では無かった気がする作品。珍しく、「毒吐き」もせず、取り立てて凝った設定も無かった。お気付きの方もいらっしゃるでしょうが、ちょっと人間関係が変わりつつある感じですな。よりお互いディープなところに入っていく人もいれば、過去にまつわる事もあり。力関係もはっきりしてきたかと。
何か、その為に書いたような作品だったのか。タイトルは、漢字一文字のものを並べてみたかっただけだと思う。「光」と「海」は好きな漢字だなぁ。


◆第12・13話 ドラッグ・パラドキシア◆
これを書いた時期が時期だけに、「時事問題」!?と言われそうだが(2001.9.11同時多発テロ)、決してそうではない。単に「ドラッグ」絡みの話が描いて見たかっただけのことで、深い意味は全くない。とはいえ、当初練っていたストーリーとここまでかけ離れた結末になったのは、久しぶりの怪挙(!)である。ジャファル・アル・ハラーンというアサッシン(暗殺者)は、もっと冷酷無比な雰囲気で行きたかったのだが、どうも紳士になってしまった感が否めない。残酷な殺し屋のリヴェンジは後の話になりそうだ。作者には、専ら化学の知識がないので、ドラッグの正体も曖昧糢糊としたままで遺憾に思うのであるが、現時点では致し方ない。
ところで
「しつも〜ん。今後どういう事(間柄)になるんですか?あの二人は」というご質問を下さったかたにここでお答えする。
「それだけは言えません」。(これが大いなるヒントです!)

◆第14話 ディジトゥス・デイ〜神の指◆


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